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賃貸マンションの専門家

当然、契約後のトラブルに直結してしまうわけだ。
だいたい居住者が退去した状態、つまり「現空」という状態で現地を案内されても、物件のチェックなどロクにできていない人のほうが多いのだ。 ましてや居住中の現オーナーに、ひきつった笑顔で横に立たれた状態で、その目を気にせず態敷無礼に細かな確認を試みよ、というのは無理な注文といえなくはない。
けれども、チェックできていない人がほとんどだからこそ、買う方にとって「現状」の確認はきわめて重大なポイントであるといえるのだ。 というのは、「現状」についてチェックできていないのは、なにも買い主だけとはかぎらないからだ。
間に立った業者はもちろん、売り主本人でさえ正確に把握できていない場合もある。 たとえばこの手のパターンでよくあるのは、オーナーがしばらく賃貸マンションとして貸していたものを、賃借入が出ていったのを機会に売りに出したという物件である。
こうなると売り主自身、そこに住んでいたわけではないので、自分の財産でありながらそのマンションの「現状」についてほとんど認識していない。 おまけにリフォームは買い主の好みで工事したほうがお互いムダな出費を避けられるとの考えで、売り主としてまったくなにも手を加えずに売りに出している中古マンションが世の中には多い。
仲介業者として間に立った営業マンも、とおりいっぺんのチェックをしただけでどんどん客を案内してしまう。 案内された客は客で、「ここが寝室、ここが居間、あ、そうか、ここが洗面所でその奥が浴室なんだ」というような具合に、そんなことは図面見ればわかるだろ、と案内した営業マンでさえ思わず胸の中で叫びたくなるような、ごく基礎的なチェックをしただけで現状を認識したと誤解して帰るのだ。

つまり、内装の傷み具合や設備の整備状況といった、物件の現状を示す大事なポイントについて、売り主も仲介業者も、そして買い主自身も知らないということになる。 こんなずさんな状況下で現実の取引がどんどん行われているわけだ。
こう聞いてしまうと、誰を頼りになにを信じてよいのやら、ますます不安に駆られるかもしれないが、そう悲観することばかりではない。 実は買い主の中には、こういった取引現場の現状認識レベルの低さをうまく利用することで、まんまと物件を値切ることに成功した人もいるのだ。
「売り主も、間に入るプロの業者も、物件の現状についてあそこまでなにもわかっていないとは思いもしませんでしたよ」半年前に購入した中古マンションのマイホームの話になると、いまでも自然と顔がほころぶSさんである。 Sさんはそのマンションを四三OO万円で仲介業者から紹介され、結果として二五O万円の値引き交渉に成功して購入したのである。
当初、間に立った営業マンにSさんは、こういうご時世なのだから当然値引きしてくれるだろうと強気で接していた。 それに対して、「現状のリフォーム代くらいでしたら多少なんとか価格の調整について売り主さんを説得できると思いますけど」というのが営業マンの答えだった。
それならその値引きの金額がいくらくらいなのか、突っ込んで聞いてみた。 「そうですね、おおよそ五O万円前後といったところじゃないですか。
まあ、売り主さんに相談してみませんとなんとも」普通ならここで、五O万円か、そりゃ、まあまあだな、と納得してしまうところだろう。 ところがその後のSさんの行動が、本人もそのときには予想もしていなかった思わぬ結果につながったのである。
どっちにしろ買った後は自分でリフォームしなければならないのだ。 それならいまのうちにおおよその予算を把握しておこうとSさんは考えた。
二、三日してから再度、中を確認したいと仲介業者に電話すると、その日はどうしても予定が取れないので鍵を貸すから勝手に見学してくれないか、という返事が返ってきた。 それならそれで結構ということで鍵を借りてマンションまで出かげたのだ。

その日Sさんに同行したのは、知り合いの工務店の親方である。 金額さえあえば購入後のリフォームはまかせるからということで連れてきたのだ。
部屋の中に入ると、親方はいきなり相撲取りがシコを踏むように床をドスドスいわせながら歩き出した。 下から苦情がくるのではと心配顔のSさんに気づいて、親方が説明した。
「この程度のことで苦情がくるなら、床の遮音性に問題があるか、下に住んでるのが神経質な人ということですから購入そのものを考え直しませんと」親方は平然としたものだ。 いわれてみればたしかにそのとおりである。
「そんなことより、ここに来て立ってもらえます?」親方が指し示す位置に立つと、床にSさんでもわかるシナリがあった。 「床の下地が相当傷んでるんですね、これは。
リフォーム代が値引き金額の一つの目安だと仲介業者がいってるんでしたら、こういう部分を直す金額も値引きの交渉材料にしてみたらどうですか」後から思い返してみると、Sさんは、親方のこの一言でふっきれるものがあったという。 それまでは、物件購入後にまたいくらカネがかかるのか、自分の出費を把握するつもりでいた。
けれどもふと考えてみると、たしかに親方のいうように、この手の工事費用を買い主である自分が負担するというのはどうも蹄に落ちない。 「そう考えたら急に、細かくチェックすることがなんだか楽しくなってきたんです」床、壁、天井の点検が終了すると、Sさんも協力しながら二人は設備のチェックに取りかかった。
水道の蛇口をひねって流れ出る水の濁りを観察してから、変な臭いが含まれていないか異臭のチェック。 それが終わると、給湯可能の蛇口をすべて同時に開栓してお湯の出の勢いを試験。

エアコンのパワーをしばらくスイッチオンにしてチェックし、キッチンやトイレ、そして洗面、浴室にそれぞれ設置されている換気扇についても、一つひとつタバコの煙をかざしながら確認。 二人の作業は、延々三時間にも及んだという。
Sさんが親方にチェックを依頼したようなマンションリフォームのポイントは、大きく次のような三段階に分けることができる。 最低レベルのCランクの工事が、壁紙、カーペットの張り替えや鍵の交換といった、その住戸の使用者が交代する際には必ず換えざるをえないというような最低限必要な工事。
当初、業者がいっていた五O万円程度の工事というのが、ほぼこの程度の工事のことを指すのである。 次に、できればオーナーが代わるこの機会にぜひ実施すべきBランクの工事が、Sさんと親方がチェックしたような床下地の傷みや設備能力の改善工事である。
手を加えないままの状態でも住めることは住めるが、いざ住み出してみると不便さを実感してしまうだろうという箇所をあらかじめ改善するような工事だ。 そしてAランクの工事が、買う側独自の希望による変更工事である。
カーペットをフローリングに換えたり、間取りを変更したりというような工事がこの部類に入る。 「設備や内装の傷んだところを改善するような工事は、買う側にすれば、売り主のほうで工事してから引き渡してほしいってことにやっとここで気づいたんですよ」ところがSさんのいうように、その修繕費用を値引き交渉の材料として利用するどころか、直すべきポイントそのものに気づかない買い主が実際には多いのである。

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